2016年05月24日
オープンソース活用研究所 所長 寺田雄一
前回に引き続き、LIFERAYのホットフィックスや、Liferayサポートの根本にある価値観について聞いていきます。
質問者:
株式会社オープンソース活用研究所 寺田雄一
回答者:
Craig Kaneko - Director, Global Subscription Services
Ivan Cheung - Senior Manager, Global Subscription Services
Q. ホットフィックスについておたずねします。LIFERAYのホットフィックスは最短5日で対応可能とのことです。他社では1~2ヶ月かかるというケースが多いですが、Liferay, Inc.(以後、Liferay)はなぜこんなに早く対応できるのですか?
A. 理由は2つあります。1つ目は前回お話した弊社のグローバルサポートの仕組みです。常に全拠点が情報をシェアしており、特定の機能や分野に詳しいサブジェクト・マター・エキスパート(SME)へ直接コンタクトでき、問題解決のプロセスを効率よくこなせるからです。2つ目の理由は、お客様へホットフィックスをいち早くお届けしたいという私たちの 「思い」からです。他社でも不可能ではないと思いますが、残念ながらほとんど見かけません。ホットフィックスをお客様ごとにご提供するには、多大なる投資、時間、そして努力が必要なので、多くの会社にとっては難しい決断です。しかし私たちは、自分たちの体験や思いに基づいてこの道を選択しました。
写真右:Craig Kaneko - Director, Global Subscription Services
写真中央:大関ダニエル - カスタマーサポートマネージャー(日本ライフレイ株式会社)
写真左:Ivan Cheung - Senior Manager, Global Subscription Services
創業以来、社員の多くがLIFERAYの開発に関わってきているので、開発を進める上で障害が原因となったフラストレーションを実際に味わっています。開発開始直後に出てきたたった1つのバグがプロジェクト全体をストップさせてしまうことも身をもって知っています。「バグが修正される次のリリースを待っているため、何か月という時間と予算を無駄にする。」ということがお客様先で無いように、できるだけたくさんの問題を素早く解決したいのです。
一般的にソフトウェアの新バージョンの場合、リリース直後に多くのバグが見つかるため、サービスパックが提供された後に購入することが多いと聞きます。一方LIFERAYの場合、万が一バグが見つかったとしても迅速にホットフィックスで対応するので、リリース直後でも安心してご導入いただいています。新バージョンが「安定」するまで待つ必要がないという点では、ゲームチェンジャーだといえます。
お客様の使い方は千差万別なので、例え同じようなバグでも注意深く個別に対応する必要があります。私たちはバグフィックスの重要性とインパクトを理解しているので、さまざまな種類のバグを修正するためのノウハウ構築に時間とリソースを割き、個別のホットフィックスを作成するツールも用意しました。ソフトウェアのサポートサービスでは、150人ものスタッフを抱えてお客様毎にバグフィックスを行わず、アップデートを定期的にリリースする方法を選択することもできるのですが、Liferayは今のやり方を選択しており、今後も個別にご提供し続けてゆく予定です。
Q. 他のベンダーはホットフィックスを出さず、サービスパックのようにできるだけまとめた形でアップデートをリリースしています。またLiferayのサポートサービスは、他社ではコンサルティングの範囲になる内容でも返答するなど、違う点が多くあります。Liferayがそのような戦略を採る理由は何ですか?
A. 私たちが持っている「お客様中心」の考え方が根本にあるからだと思います。例えば、料理が美味しいだけのレストランがある一方で、料理が美味しいだけでなくサービスも素晴らしいレストランもあります。「製品は好きだけどね…。」と言われることなく、私たちのチームを通じて製品とサービスの両方を好きになっていただきたいのです。
Q. 「お客様中心」の考え方は、Liferay創業者の一人であるブライアン・ジョンCEOの方針なのですか?現在150名ものサポートスタッフがおり、しかもサポートは世界中に拡がっていますよね。150名全員が同じように「お客様中心」の考え方を維持することは相当難しいと思われます。Liferayではなぜそれができるのでしょうか?
A. Liferayにおけるコアバリューのひとつは、「リレーションシップの重要性」です。Liferayでは一人ひとりを一個人として重視しています。社員を単なる労働の提供者としてではなく、それぞれの人生を生きるユニークな存在として見ています。それはお客様も同様です。お客様は単に私たちに給料をくれるだけの存在ではありません(笑)。お客様にもそれぞれ生活があり、仕事を終えると皆家族の元に帰ります。もし悪いサービスを経験すれば、機嫌が悪いまま家に戻るでしょう。常に満足した製品やサービスを提供できるとは限りませんが、できるだけ人間と人間が接しているのを感じてもらいたいと思っています。
Q. それは素晴らしい考え方ですね。
A. 先ほどのご質問にお答えしますと、これは「インサイド・アウト(内から外へ)」の考えというべきかもしれません。Liferayの社内にいる私たちが、相手が心地よく満足できるように接しお互いの価値を重視することができれば、お客様にも自然に同じことができるようになってきます。さらに会社を出た後は、家族や友人にも自然と同じように接するようになります。
ただ、すべての社員が同じように実現できているわけではありません。基本的には、採用面接の際に私たちの価値観に対して共感してくれる人を採用するようにしています。社内で実際に感じて、最終的には実践できるようになってもらいたいと願っています。
サポートチームに対しては、特にこの価値観を浸透させていきたいと思っています。それには、まずグループのリーダーである私たちが、チームメンバー各自の価値を認めなければなりません。実践することで各メンバーが実感して、お客様に同じように接してくれます。
私たちは世界中のオフィスを回ってサポートチームとミーティングを行っていますが、ミーティングでは「チームの調子はどう?」「各メンバーの調子は?」「彼らを人として更に成長させてあげられているかな?」といった話題が中心になります。「売上の数字はどうなっている?」なんて話題はほとんどしません。
会社の上層部が各自を個人として見ているとチームが感じれば、彼らも同様にお客様に対するようになると考えています。お客様の満足度が私たちの優先課題だということが理解できれば、彼らもやるべきことをやるようになります。
Q. なるほど。
A. Liferayのこの考え方は、私たちがサポートに取り組む姿勢にも関係しています。単に数字の事だけを考えているのであれば、できるだけたくさんのチケットをクローズしろという取り組みになります。しかしお客様の事を真剣に考えているのであれば、微妙な境界線上のご質問にもお答えするなどしてお客様の満足度を高めることに努めることができます。
Q. ご説明いただいたLiferayの価値観についてはよくわかりました。設立以来ずっと社内で共有されてきたものと思いますが、その価値観の原点はどこにあるのですか?それは例えば大手ベンダーなどに対するアンチテーゼなのか、あるいはLiferayはもともとキリスト教の教会用アプリケーションとして開発されたのでその辺が影響しているのか…。いかがでしょうか?
A. 人を人として重視するLiferayの価値観は、創立時の頃から既にあった価値観だと思います。Liferay創業者の一人でチーフ・ソフトウェア・アーキテクトのブライアン・チャンは、もともとキリスト教の牧師になりたかったと聞いています。ある日、チャンのメンターが「牧師になってキリスト教を広め、人々をケアし、世界に良いインパクトを与えたいというあなたの希望は知っています。しかし、神はあなたにコーディングという才能をお与えになったのだ」と説得したそうです。
やがてチャンは一つのウェブサイトを作るのではなく、何千ものウェブサイトを作ることができるスキームを開発しました。彼のゴールは「世界に良いインパクトを与える」ことであり、スキームはその手段であるに過ぎませんでした。後に彼が創業メンバーと共有したのも、同じゴールでした。
Q. それは大変興味深いお話ですね。
A. 他の大企業ではありえないかもしれません。チャンが立ち上げたプロジェクトは、大企業で多く見られるトップダウン式ではないですからね。Liferayでは、一人ひとりが自分で判断して行動することが多くあります。「まずは自分の家族に仕えなさい」と聞いたことはありませんか? 自分の家族に仕えて家族を満足させて、初めて自分や他人も満足できるという考えです。Liferayファミリーでも同じです。
人に何かをしてもらう場合、「これをしなさい」と指示することもあります。一方、自らその人の手本となり行動で見せ、さらにその人が実行する際に支援することもできます。Liferayは間違いなく後者の会社です。
Q. Liferayがどのようにして生まれ、人を人として重視する価値観を設立当初より持ち続け、それを顧客サポートにまで浸透させているということがよくわかりました。素晴らしいことだと思います。本日は貴重なお話をお聞かせいただき、ありがとうございました。
A. ありがとうございました。
1993年、株式会社野村総合研究所(NRI)入社。 インフラ系エンジニア、ITアーキテクトとして、証券会社基幹系システム、証券オンライントレードシステム、損保代理店システム、大手流通業基幹系システムなど、大規模システムのアーキテクチャ設計、基盤構築に従事。 2003年、NRI社内に、オープンソースの専門組織の設立を企画、10月に日本初となるオープンソース・ソリューションセンター設立。 2006年、社内ベンチャー制度にて、オープンソース・ワンストップサービス「OpenStandia(オープンスタンディア)」事業を開始。オープンソースを活用した、企業情報ポータル、情報分析、シングルサインオン、統合ID管理、ドキュメント管理、統合業務システム(ERP)などの事業を次々と展開。 オープンソースビジネス推進協議会(OBCI),OpenAMコンソーシアムなどの業界団体も設立。同会の理事、会長や、NPO法人日本ADempiereの理事などを歴任。 2013年、NRIを退社し、株式会社オープンソース活用研究所を設立。
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