米国ベイエリアレポート ~シリコンバレーにおけるIT産業およびオープンソースムーブメント~ | 米国ベイエリアレポート(第5回)シリコンバレーにおけるITスタートアップおよびベンチャーキャピタル

米国ベイエリアレポート(第5回)シリコンバレーにおけるITスタートアップおよびベンチャーキャピタル

米国ベイエリアレポート ~シリコンバレーにおけるIT産業およびオープンソースムーブメント~

2015年03月12日
(株)オープンソース活用研究所 顧問 八塚 俊次郎

Google, Apple, Facebook等、IT業界を牽引するグローバルカンパニーが集積するシリコンバレー。それら先進企業においても、オープンソースソフトウェアの存在は不可欠なものとなっています。

ここではシリコンバレーにおけるIT、オープンソースの動向について、紹介させて頂きます。今回は、第5回目として、シリコンバレーと東京に拠点を構えているDraper Nexus Venturesのマネージングディレクターであるミッチ・キタムラさんにシリコンバレーにおけるITスタートアップの動向およびベンチャーキャピタルにおける業務についてお伺いした内容をご紹介いたします。

ミッチ・キタムラさんのご紹介

ミッチ・キタムラさん

(過去の経歴をご紹介いただけますか。)

私は日本の高校を卒業後、オーストラリアの大学を卒業しました。その後、ボストン大学にて経済学修士を修了し、97年にニューヨークのJETROにて勤務しました。当時の私の担当は、新テクノロジーに関するレポートおよび新しい米国製品の日本への紹介でしたが、1996-1998年は、まさにインターネットがこれから伸びようとしていたタイミングです。

その後、2000年にシリコンバレーに拠点を開く日本のベンチャーキャピタルファームからのオファーを受け、ニューヨークからシリコンバレーの方へ移ってきました。2000年といえば、インターネットビジネスの急成長の時代であり、e-Commerseと言ったビジネスに取り組むスタートアップのいくつかは、10Mドル、20Mドルと言った規模の資金を調達し、彼らがまずはじめにしたことはクルーザーを借り切って、サンフランシスコ湾でパーティーをしたりしていたのを覚えています。

それは明らかにバブルであり、.comバブルの崩壊により、その後経済は急速に失速しました。私がシリコンバレーに来た2000年はまさにそういった時期でした。ベンチャーキャピタルファームでの職務を経験し、シリコンバレーの景気はアップダウンを経験し、そして、2011年に私は仲間とともにDraper Nexusを立ち上げました。Draper Nexusは東京とシリコンバレーに拠点を構え、日米間で投資を行うベンチャーキャピタルファームです。日本の将来国際展開が期待される有望なスタートアップや、シリコンバレーで日本への進出が期待されるスタートアップなどを投資対象としており、東京とここ、シリコンバレーにオフィスを構えているのは、そういった背景からです。

私達は2つのファンドを運用しています。Fund-IIは9月にファーストクロージング (First Closing) を行った100Mドル規模のファンドであり、Fund-Iは2011より運用されている50Mドル規模のファンドです。出資元のほとんどは日系企業です。日系企業は投資に対するフィナンシャルリターンの他に、戦略的リターン、すなわちシリコンバレーにおけるスタートアップへの接近を目的としています。すなわちファンドへの出資を通して、シリコンバレーにおける将来の提携先を見つけだすことが目的の一つとして挙げられます。

(Tim Draperさんおよび、Draper Universityとはどのような関係性にあるのでしょうか。)

Tim Draperは、私達と複数の関係性を持っています。 彼は私達のファンドに対する出資者の一人であると同時に、投資コミッティーメンバーの一人でもあり、投資の意思決定に参画しています。彼はDFJ Global Networkを創設し、私達はその中の15のパートナーの一つで日本側パートナーにあたります。

Draper UniversityはTim Draperの取り組みの一つであり、Draper Nexusの出資者むけプログラムなどの関係があります。

(Draper Nexus Venturesにおけるご担当をご紹介いただけますか。また最近はどのようなことを中心に従事されているのでしょうか。)

主に投資家、私達の場合には企業からの出資金集めに従事しています。 私達がしていることとしては、1つ目に、出資金を集め、2つ目にファンドの目的と合致する投資先企業を発掘し、3つ目に投資先の成長をサポートする、と言う流れにあります。成長のサポートとしては様々なやり方がありますが、アーリーステージのスタートアップは、企業が持ち合わせる資源が限られているため、私達自身も一緒になって運営することがあります。 現在、Fund-IIのファーストクローズが終わったところなので、前述でいうところの2つ目のポイントにあり、投資先企業の選定に取り組んでいるところです。

シリコンバレーにおける近年のITスタートアップ

Draper Nexus Ventures Iのポートフォリオ

(最近はどの会社に注目されているのでしょうか。また、最近のシリコンバレーにおけるITスタートアップのトレンドとしてはどのようにお考えですか。)

上記に示したものが、弊社のFund Iにおける投資先ポートフォリオとなります。日本とアメリカの双方を対象とし、また、業種としてもITと製造業を中心としており、LP (Limited Partnership)としては、日系企業が中心となっています。 その中で今注目しているのは、ロボティクスおよび、エンタープライズ向けのITサービスです。

やはり今注目されているキーワードはIoT、デジタルヘルスなどで、すべてのものがネットにつながる世界というのはやはり今後大きな可能性があると思います。さらには産業用ロボット関連の分野はグーグルなども注目している領域で、今後は関連する分野を含めてさらに成長があると思います。 多くのベンチャー企業に注目はしていますが、Quirkyは日本の製造業にも大きなインパクトを与える可能性のある会社で得に注目しています。

(シリコンバレーにおいて、オープンソースソフトウェアに関係する動向に注目されている分野はございますか。)

まずいえることは、スタートアップにおけるビジネスの立ち上げにおいて、オープンソースの活用が当たり前となってきているということが言えます。インターネットが登場して間もないころに、ECサイトを立ち上げるには、商用製品を使用するなど、相当な資金が必要とされていましたが、今やオープンソースを利用することにより、必要資金は 1/10程度になったのではないかと思います。そういう意味で、オープンソースは、スタートアップを立ち上げる障壁を大きく下げることに貢献していると感じます。

そして、オープンソースに関連するビジネスに取り組んでいる出資先としては、Gildが挙げられます。こちらはソフトウェアエンジニアの採用支援のための情報を提供するサービスであり、オープンソースの開発実績から、採用候補となるエンジニアを見つけだすことに寄与するものです。具体的にはGitHubといったオープンソースの開発プラットフォームへのコミット実績や、Stack Overflowにおける質問回答における貢献度をポイント化し、そのデータを提供するというサービスです。

(日本とアメリカのソフトウェアエンジニアにはどのような違いが挙げられると思いますか。)

エンジニアとしての力量としては大きな違いないとも感じますが、同時にエンジニアを囲む職務環境については、大きな違いがあると感じます。こちらのエンジニアは、より良い雇用条件があれば3年を待たずして転職することが一般的に行われていますし、また、会社からのレイオフも頻繁に行われます。結果、エンジニアとして、より良い環境を目指して、常にアグレッシブに切磋琢磨している、という点に関しては、やはり日本の環境とは大きく異なると感じます。 そういう意味では、こちらのエンジニアの方が、個人としての独立意識が強い、と言えるかもしれません。

シリコンバレーにおけるベンチャーキャピタル

サンマテオのDraper Nexusオフィスで開催されたJapan Nightの様子 Copyright © 2013 Btrax, Inc.

(シリコンバレーにおけるベンチャーキャピタルは資本のみならず、ハンズオンのサポートも提供されていると言われていますが、そのように思いますか。また、日本とアメリカのベンチャーキャピタルでどのような違いがあるとお考えですか。)

シリコンバレーにおけるベンチャーキャピタルでは、資本以外に何を提供できるのか、他のベンチャーキャピタルファームとの差別化が常に求められています。経営指南の他、オペレーションのサポートや、顧客との結びつけと言ったことも行います。そして、そういった活動の結果、ベンチャーキャピタルとしてのブランドが確立され、著名なブランドを保有するベンチャーキャピタルの投資先は、業界において常に注目されています。著名ベンチャーキャピタルにおいては、その名前に価値を持つようになっている、ともいえるかと思います。ハンズオンと言う枠をこえ、投資先の成長につながることであれば何でも行います。

日本のベンチャーキャピタルとの違いとしては、供給資金の額面の差が挙げられるかと思います。こちらには潤沢な資金を持つ投資家が多くおり、最近は日本も大分状況が変わってきていますが、それでも投資資金額としてはまだ大きな差があると思います。

また、投資ビジネスの形態としても多少の差があると感じます。日本もこの数年で大分状況も変わってきていますが、ちょっと前までは、ベンチャーキャピタルと言えども、銀行としての融資ビジネスに近い形態をとっていたところが多く、投資先ビジネスが不振に陥った際にも起業家からの出資金の返済を期待しているような事例を聞いたことがあります。

けれども、繰り返しとなりますが、最近は日本の状況も大きく変わってきていると感じます。

(「リーン・スタートアップ」にはスタートアップにおける本当の成長を測るには、通常の会計とは異なる「イノベーション会計」が重要であり、必要に応じて、ピボット(方向転換)が必要と記されています。 投資先のパフォーマンスはどのように評価されていますか。また、投資先ビジネスで、ピボットを余儀なくされることはありましたか。)

まず、会社に対する評価にはKPIを用いますが、その定義はそれぞれのベンチャーキャピタルファームごとに設定方針が異なりますし、弊社においても、投資先企業のビジネス内容/ステージに応じて、個別に設定するようにしています。KPIの具体例としては、提供してるWebサイトへのアクセス数や、ダウンロード数、アクティブユーザー数などが挙げられます。イノベーション会計についての記載と同様、投資の段階においては、ビジネスの可能性、マネジメントの巧拙、およびKPIの動きを重視し、その時点の収益性についてはあまり意識しません。

ピボットについては、過去の実績において、投資先企業のほとんどすべてにおいて、経験しています。状況にあわせて、いかに柔軟にピボットできるかが、とても重要であり、投資を行ってから数か月後にピボットが必要と判断する場合もあります。スタートアップには、そういった柔軟な経営のためのマネジメントが求められていると言えるかと思います。

(今日において、Y-Combinatorや500Startupsといったアクセラレーターが有名となっていますが、ベンチャーキャピタリストとして、これらの動向と関係することはありますか。)

はい、大きく関係しています。Y-Combinatorや500StartupsといったアクセラレーターのDemo Dayのピッチを確認することは、世の中のビジネスのトレンドをとらえる上で、とても重要な情報源となっています。

また、弊社においては、アクセラレーターが対象とするステージのスタートアップに対しても分散投資をしています。

(スタートアップのビジネスを海外に展開する上で大切なことはどのようなことが挙げられるとお考えですか。)

まず最初に言えることは、拠点とする地域においてきちんとビジネスの基盤をつくり上げることが大切だと考えます。確かにインターネットの時代であり、すぐにも国境を越えたビジネスを進めることも可能ですが、対象地域によって、ビジネスの慣習が異なります。よって、まず、日本なら日本、シリコンバレーならシリコンバレーでビジネスとして確立されたうえで、海外への展開を考えていくことが良いと考えます。

最後に

(次のステップとしてはどのようなことを計画されていますか。)

引き続き、日本の大手企業とシリコンバレーのスタートアップを結び付けることに取り組んでいきたいと考えています。

大手企業とスタートアップの連携を考える上で、スタートアップが保有する知的財産を適切な形で扱うことが期待されています。ときに大手がスタートアップの知的財産を侵害するというトラブルが発生することがあるため、スタートアップの権利を適切に保護することに取り組んでいきたいと考えています。その点においては日系企業は比較的誠実に対応されている、と言う印象がありますが、一方、日系企業の問題としては、意思決定の遅さが挙げられます。たいていのスタートアップには時間に限りがあり、早く成長しなければ、資金が底をついてしまいます。日本の大手企業の経営文化とシリコンバレーにおけるスタートアップの経営文化には大きなギャップがあるため、その間を取り持つところで貢献していければと考えています。

(ソフトウェア技術者へのお薦めの本はありますか。)

ピーター・ティール著の「ゼロ・トゥ・ワン」をお奨めします。ビジネスサイドの書籍ですが、ソフトウェアエンジニアにとっても一読の価値があると思います。

(本日はご協力ありがとうございました。)

関連サイト

Draper Nexus Ventures
http://www.drapernexus.com/

DFJ
http://dfj.com/

Draper University
http://draperuniversity.com/

Gild
https://www.gild.com/
Btrax
http://btrax.com/


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著者プロフィール

(株)オープンソース活用研究所 顧問 八塚 俊次郎

国産地球観測衛星の地上受信処理設備の開発の他、ITコンサルティングファームにて大規模ERP/CRM導入プロジェク トのPMOを中心として従事。現在、株式会社オープンソース活用研究所 顧問。シリコンバレー在住。

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