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米国ベイエリアレポート(第4回)オープンソースソフトウェアと知的財産

米国ベイエリアレポート ~シリコンバレーにおけるIT産業およびオープンソースムーブメント~

2015年02月08日
(株)オープンソース活用研究所 顧問 八塚 俊次郎

Google, Apple, Facebook等、IT業界を牽引するグローバルカンパニーが集積するシリコンバレー。それら先進企業においても、オープンソースソフトウェアの存在は不可欠なものとなっています。

ここではシリコンバレーにおけるIT、オープンソースの動向について、紹介させて頂きます。今回は、第4回目として、シリコンバレーを拠点として、オープンソースを含むソフトウェア全般の知的所有権を専門とする法律家であるアンゼル・ハリバートンさんにお伺いした内容をご紹介いたします。

アンゼル・ハリバートンさんのご紹介

アンゼル・ハリバートンさん

(過去の経歴をご紹介いただけますか。)

私はアメリカの東海岸にあるコネティカットで育ちました。その後、カリフォルニアに移り、カリフォルニア大学バークレー校に入学しました。大学ではコンピューター科学の授業もいくつかとりましたが、基本的には政治科学を中心に勉強しました。卒業後はエンジニアとしてスタートアップで開発者向けのツール開発、データベース構築およびデータモデリング、Webアプリケーションの構築などを担当しました。

そして、とある法律事務所で3年半ほど働く機会があり、法律分野に興味を持つようになりました。そこで私は2度、裁判に立ち会うこととなりました。通常アメリカでは統計によると95-98%は裁判になる前に和解が成立するため、3年半の間に2度の裁判に立ち会うことは、異例と言えます。

そこでの裁判は 企業秘密 (Trade Secret) に関するものでしたが、ある従業員が以前の職場に帰属するソースコードを持ち出しては、同じ分野で新たなビジネスを始めたことに対する訴訟であり、とても興味深いものでした。彼はソースコードを別のコンピューター言語に変換していたため、それが前職の会社に帰属するソースコードの流用なのか否かは、ソースの内容を比較して見ていく必要があり、技術的なバックグラウンドが要求される作業でした。そこで真実を語るものは、ソースコード中のコメントの文面でした。それは興味深いものではありましたが、複雑な訴訟でもありました。

それから私はスタンフォード大学 (Stanford University) のロースクールとコンピューター科学部門の連携プロジェクトに招聘されました。"International Properties Litigation Clearing House" という 名称のプロジェクトであり、特許に関係する訴訟データを法律家、一般市民および判事向けに提供する、というものでした。その目的は、当時まだそういったデータを入手する良い手段がなかったことが挙げられます。連邦裁判所では、"PACER" (Public Access to Electric Records) と呼ばれる電子データの管理システムがありましたが、それは1ページをダウンロードするごとに10セントを課金していました。私の持論としては、議会が一般市民からの自由なアクセスを実現できるように資金を提供するべきと考えていましたが、議会からは十分な資金が供給されていませんでした。もしあなたが一つの訴訟に興味を持っている場合には大きな問題とはなりませんが、訴訟に関するデータベースを作ろうと思った場合には文字通り、数百万ドル (数億円) という資金が必要となります。そして、Clearing House Projectとして行ったことは、まさにその実現でした。

この"IP Litigation Clearing House"のアイディアは、インテル社 (Intel Corporation)、Genentech社およびいくつかの法律事務所が中心となり、プロジェクトが開始され、エグゼクティブディレクターに続き、私も雇用され、他数名がプロジェクトに登用されました。私はクローラー、ルールエンジンの開発に携わり、特許に関連するすべてのデータをダウンロードいたしました。

技術面では非常に興味深いものであり、特許紛争について多くのことを学びました。プロジェクトは最終的に民間企業に引き継がれ、今では20名程度のスタッフにより運営されています。データは判事、学術研究者は無料でアクセスでき、法律事務所から手数料を取る形となっています。そのシステムはPACERと比較しても、安定しており、より高度な分析を可能とし、コスト面においても機能面においても、圧倒的に利用しやすいものとなっており、訴訟における意思決定支援に活用されていることでしょう。

私は2,3年の間、そのプロジェクトに従事した後、カリフォルニア大学デービス校 (University of California Davis) のロースクールに入り、素晴らしい教授の指導の元、とてもよい経験を積むことができました。

そして、以前働いていた法律事務所に戻りましたが、そのときには、"Computer Law Group"へ名称が変更されていました。私は特許、著作権、商標、企業秘密、ビジネス上の詐欺を担当しており、2つの裁判を担当しました。一つは商標、もう一つは特許に関する訴訟でした。そして今年の9月に、サンフランシスコにて訴訟 (告訴) およびスタートアップ支援にフォーカスした法律事務所を開業し、興味深い仕事をしながら、すでにいくつかの案件を獲得することができました。

(最近はどのようなことに従事されているのでしょうか。)

スタートアップの支援を中心に対応しています。

たとえば、わたしは開発者からの著作権に関する質問に対応しています。まずは、彼が何に取り組んでいるのか、ビジネス観点および技術観点の双方から理解しなければなりません。クライアントが何に取り組んでいるのかを理解した上で、法律による権利保護をどのように適用できるか考える必要があります。

もう一つは"Legalzoom" (個人、中小企業向けに法律関連の情報を提供するサービス) と言ったサービスから提供されるドキュメントを利用しているアーリーステージの会社に対するサポートです。"Legalzoom"のようなプラットフォームを用いて自分で行おうとすることはとてもよいことではありますが、ときとして誤った道へ迷い込むこともあり、正しい道へ進むことの支援をしています。

オープンソースライセンスについて

主要なオープンソースライセンスの特徴(GitHub, “ChooseALicense.com"からの引用)

(主要なオープンソースソフトウェアライセンスの違いをご説明いただけますか。)

まず始めにいくつか関連する用語の意味を整理しておきましょう。

まず、あなたが知的所有権を持つということは、あなたが作成したものに対して、それに対する他の人の使用権をコントロールできることを意味します。著作権はあなたのアイディアの保護に利用され、特許権も同様です。そして、契約により、あなたが持つ知的所有物に対して、他の人にも利用を認めることができます。契約が結ばれる前には、人々はそれらを利用することは認められていませんが、ライセンス契約により人々があなたの知的所有物を利用することが許されます。

そして、それらのライセンス契約の内容は様々な条項により規定されますが、オープンソースライセンスについては、"許容的ライセンス" (Permissive License) と"制限的ライセンス" (Restrictive License) の大きく二つのグループにわけられます。

"制限的ライセンス"としては、GPL、"許容的ライセンス"としてはBSD、MIT、およびApacheライセンスなどが挙げられます。それらライセンスについてはかなり寛容的であり、記載条項自体が短い傾向にあります。MITライセンスについては、特別な制約なくソースコードを利用できることとなっています。唯一認められていないことといえば、リリース元を訴えることができない、ということです。また、あなたが取得したものについて、保証もありません。それがMITライセンスであり、とてもシンプルです。

それに対して、GPL v3は12ページにもなり、より複雑な内容となっています。多くの制限事項が含まれているため、"制限的ライセンス"と呼んでいます。たとえば、GPLのセクション5がGPLの記載における中心的内容となりますが、それは、あなたが修正した箇所について明示的な説明を行うことが求められています。よって、たとえばあなたがGPLのソフトウェアをフォークした場合、その条項が発動し、あなたは変更履歴を一緒にリリースすることが求められることとなります。また、あなたはGPLの元でソフトウェアをリリースしている旨を示す明確なメモを残すことが求められます。GPLに関する記述、および著作権に関する記載、たとえば"copyright 2014"といった記述を用意する必要があります。

Apacheライセンスも同様にとても長いものですが、GPLほどではありません。またApacheライセンスはGPLよりもモダンな定義となっています。というのも、GPLv2は1991年に記されたものですが、驚いたことに現代においてもまだ多くのソフトウェアで利用されています。1991年といえば、まだ"World Wide Web"がなかった時代です。その時代から比べれば様々なことが進化しており、Apacheライセンスも改良が加えられてきました。たとえば、企業にとってはとても重要となる特許に関するライセンスの規定がなされています。

それに対してGPL v2にはそれがありません。つまり「私は特許権に対するライセンスを付与します」といった記載がないため、もしソースコードをGPL v2の元でリリースしている場合、特許権を主張することもできてしまいます。

以上がオープンソースライセンスに関する簡単な説明となります。

(AGPLはASPループホールを克服するために作成されましたが、いくつかのオープンソースソフトウェアはGPLの元で今日もリリースされています。オープンソースライセンスを変更するにはどのようなことが必要なのでしょうか。)

“ASPループホール"を考えるためには、1991年に遡る必要があります。当時、ソフトウェアはあなたの端末上で動作していました。1991年当時、クラウドコンピューティングについて考える人はまだいませんでした。Webアプリケーション自体がまだ存在していなかったため、それを考えるなんてこともありません。GPLは端末上で動作するソフトウェアを扱う上では十分な記載となっていました。

もし、あなたが修正されたソースコードをあなたの端末上で動作させるとき、もしくはフロッピーディスクにて販売するとき、それはあきらかに"配布" (distribution) に該当します。しかし2014年において、私達はそういったことはもう行いません。時代はクラウドコンピューティングです。あなたはGPLのソースコードを取得し、修正を加えたとしても、あなたは配布を行うことはなく、サーバー上で走らせては人々はそのアプリケーションにアクセスし、ソースを確認することはできません。それがASPループホールと呼ばれる問題です。

GPLv2はWorld Wide Webの時代において効力を発揮しなくなっています。AGPLはそのASPループホールの抜け穴を防ぐものです。もしソフトウェアがサーバー上で走っているとき、ソースコードの配布を必要とする、それは理にかなった定義といえるかもしれません。

では質問のGPLはAGPLに変更することはできるのか。

勿論可能です。しかし、もし数十人、数百人といった開発者が参加するような大きなプロジェクトを対象とするときにはそれは難しいかもしれません。そこで重要と考えられるのが、"貢献者ライセンス同意書" (Contributor License Agreement) です。とっつきにくいもののように感じられるかもしれませんが、実際には身構えるほどのものではありません。ただ、ソフトウェアの変更に伴う知的所有権の在り方に関する条項が記された短い同意書にすぎません。もしあなたがこれを行わない場合、あなたはライセンス変更において、行き詰ることになるかもしれません。あなたは他のメンバーの動向に振り回されては、この問題により全員が不満を余儀なくされることとなるかもしれません。

明示的に同意書を作成しない限りは、同意書がないこととみなされます。

(SOAに基づきシステムを構築するとき、"Webサービス"と言う形を通して外部サービスを利用する場合があります。Webサービスは疎結合であり、接続システムからは分断されたものと一般的には認識されます。そのような場合、呼び出されるソフトウェアにコピーレフトが適用されていたとしても、Web Serviceによる呼び出し側には反映されない、と言う理解で正しいでしょうか。)

良い質問ですね。

まず、ここでのライセンスのすべては著作権法の規定に基づく権利に由来するということが言えます。著作権法の重要なコンセプトは「派生開発物」が挙げられます。もしあなたが開発者であり、何かのオープンソースのフォークを作成したとき、それは派生物と見なされます。

もし、何百と言ったモジュールから構成される大規模ソフトウェアを扱い、それらの一つがプログラムAだとします。そのプログラムAは派生開発物と言えるか。派生開発物と見なされる可能性もありますが、それがどのような形でリンクづけられているか、および、どのような背景から作成されたものであるかに依存することとなり、個別の調査に基づき判断されることとなるでしょう。

オープンソースソフトウェアの知的財産とビジネス

フットヒルカレッジで開催されたシリコンバレーコードキャンプ2014の様子

(オープンソースに関連する知的所有権について、今、アメリカではどのような訴訟が発生しているのでしょうか。また将来、そういった訴訟が増えると思いますか。)

オープンソースソフトウェアに関する訴訟は比較的少ないと言えます。それは訴訟相手にはあまりお金がない、と言うことが挙げられるかもしれません。

Open Source Freedom Law Centerにおいて、Busy Boxと言うLinux向けツールに関する訴訟がありました。Busy BoxはNetgearにおいて利用されており、そのNetgearは後にシスコシステムズ社 (Cisco Systems, Inc.) により買収されました。よってシスコシステムズ社はNetgearのGPLに関する問題を引き継いだこととなります。シスコシステムズ社はその後、正しい道を歩むこととなり、Busy Boxに対する変更点をすべて公開しました。よって、この訴訟については成功に終わったと言えるかもしれません。

今、私が担当している訴訟はXimple WareとVersataと言う会社の間で行われているものであり、GPL違反に関して、San FransiscoとSan Joseで2つの訴訟があります。

Versataと言う大企業が、Ximplewareの高速XMLパースのパッケージを利用していますが、彼らが提供する製品において、ライセンス条項や著作権の記述が明示されていません。今多くの人がこの訴訟を注目しています。

将来、この手の訴訟が増えるかについてですが、私は必ずしもそうとは思いません。過去の訴訟の判例はコミュニティ側をサポートするものであり、オープンソースのライセンスがどこまで効力を発揮するのか、というオープンクエスションに対して、過去の判例をもって回答を得ており、周知の事実となっているためです。まだ、いくつかの訴訟は起きるかと思いますが、そこまで大きく増えないと予想しています。

(Apache Open Officeに代表されるように、いくつかのオープンソースソフトウェアは商用ソフトウェアの機能と類似するものがありますが、オリジナルのソフトウェアの知的所有権を侵害しないためには、どのようなことに気を付けるべきとお考えですか。)

現在において、マイクロソフト社 (Microsoft Corporation) の特許を完ぺきに把握することは極めて難しくなっています。不可能と言ってもよいかもしれません。気を付けるべきこととして最も基本的なこととしては、他のソースコードをコピーしないことです。もしあなたが他の商用ソフトベンダーの開発者を雇用する場合、その開発者が以前の職場での開発コードを利用できない、ということをきちんと理解させることが大切です。これは何もオープンソースに限った話ではなく、ソフトウェア業界全般に言えることです。

より興味深い質問としては、ユーザーインターフェースの商標権 (design patent) についてです。商標権は、アメリカでは特許と見なされますが、機能設計の保護としても効力を持ちます。ユーザーインターフェースには気を付けた方が良いでしょう。ユーザーインターフェース全体でなく、ボタンやアイコンといった特定の要素も著作権の保護を受けることがあり、それらに注意を払う必要があります。

たとえ、ソースコードをコピーしなかったとしても、特許を侵害している可能性があります。もし処理プロセスが類似している場合には、ソースコードをコピーしたか否かは問題ではありません。特許の内容を模倣して実装した場合には権利侵害となります。

(現代においては、知的所有権の取引所としてIPXI (The Intellectual Property Exchange International, Inc) が挙げられます。ソフトウェアの特許についてもそこで取引されるようになると思いますか。)

勿論です。複数の知的所有権の取引所がすでに存在しており、市場は拡大していると言えます。

IPXIは知的所有権の取引市場におけるプレイヤーの一つですが、他にも、"Auction Houses"、"Ocean Tomo"、"Patent Brokers"などがあり、"IPNEXUS"、"tradermine"、"Docking Systems"と言ったオンラインの取引所も出てきています。世の中にはすでに知的所有権を取引する多くの方法があり、そこでソフトウェアが取り扱われない理由はありません。

より興味深い質問としては、「ソフトウェアはこれからも特許の取得対象であり続けるか」です。

私はそのように考えていますが、確信には至っていません。ソフトウェアに対する特許は抽象的なものが多く、より明確なフレームワークが求められています。ソフトウェアの特許に関連しては、まだ多くの係争中の訴訟があり、発展途上と感じています。

最後に

(次のステップとしては、どのようなことを考えられていますか。)

最近は係争中の訴訟を調査していますが、それらを追及しては、素晴らしいクライアントを見つけて、より興味深い仕事を見つけていきたいと思います。また、同時にスタートアップを対象として、より多くのオープンソース・コミュニティに関連する仕事をしていければと思っています。

(ソフトウェアエンジニア向けのおすすめの本はありますか。)

オープンソースの理解について、二つの書籍が挙げられます。

一つは、Andrew M. St.Laurent著の"Understanding Open Source and Free Software Licensing"です。もう一つはKarl Fogel著の"Producing Open Source Software"です。

(本日はご協力ありがとうございました。)

関連サイト

Halliburton Legal
https://halliburtonlegal.com/

Open Source Licenses
http://opensource.org/licenses

Stanford IP Litigation Clearing House
https://www.law.stanford.edu/organizations/programs-and-centers/stanford-ip-litigation-clearinghouse

ComputerLaw Group LLP
http://www.computerlaw.com/


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著者プロフィール

(株)オープンソース活用研究所 顧問 八塚 俊次郎

国産地球観測衛星の地上受信処理設備の開発の他、ITコンサルティングファームにて大規模ERP/CRM導入プロジェク トのPMOを中心として従事。現在、株式会社オープンソース活用研究所 顧問。シリコンバレー在住。

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